2014年10月10日
2013/9/11~11/12のうち、30日間実施
福島県
2,137名
特定非営利活動法人じぶん未来クラブ
代表 佐野 一郎(サノ イチロウ)
1960年愛知県生まれ、慶応義塾大学卒。1984年株式会社リクルート入社。企業の採用支援事業、教育研修事業、大学・専門学校の学生募集の支援事業などを経て、ワークス研究所「ワークス」編集長に。その後2005年10月にリクルートを退社。現在、次代を担う子どもたちが出会い・学ぶ新たな場作りをめざして、NPO法人じぶん未来クラブを設立。現在代表を務める。
特定非営利活動法人じぶん未来クラブ
理事 林 貴美子(ハヤシ キミコ)
日本女子大学卒、1984年株式会社リクルート入社。主に教育機関の学生募集支援事業に在籍。営業、商品企画、部門内人事教育、事業統括などを担当し、2002年6月退社。以後自然療法を学び、大学エクステンションセンター等で講座を開設。2006年1月にじぶん未来クラブの立ち上げに関わり、現在理事
佐野:東日本大震災が起きた時に、ヤングアメリカンズはジャパンツアーの期間中でした。その日は成田国際文化会館会場のワークショップ初日で、地震発生時、キャストは機材を会場に搬入していました。当然のことながら、そのワークショップは中止になりました。当初、キャストはホームステイする予定でしたが、そのまま会場のホールに留まることになりました。 東京にいた私が成田市の会場に到着すると、ボランティアの方々が集まっていて、「何か私たちにできることはないか」とおっしゃってくださいました。そこで、キャストに必要なものがないか尋ね、食事と寒さをしのげる追加の毛布が欲しいと伝えました。すると2時間ほどで、キャストのためにおにぎりや食品の差し入れ、毛布を持ってきてくださったのです。ボランティアの方々も大変な状況なのにと、キャストも感激していました。その後、予定していた春ツアーの開催については計画停電や交通機関の問題で中止を決めました。キャストはアメリカに帰るための飛行機の予約も取れず、大変な体験をしたと思います。
佐野:春ツアー中止後、文部科学省の方から連絡があり、“東北支援の一環として、ヤングアメリカンズのワークショップを行えないか”というお話がありました。しかし、じぶん未来クラブとしては、ツアー中止による多額の赤字を出しており、団体自体が潰れるかもしれないという危機で、その時はお断りするしかありませんでした。
団体の今後について見通しがつき始めたころ、支援をいただいていた企業の支店や、ヤングアメリカンズのTシャツ制作を依頼していた岩手県の工場が被災していたことが分かりました。東北のために何かしたいという思いが強くなり、やはり東北ツアーを開催しようと思いました。 しかし、ヤングアメリカンズの本部があるアメリカでも、東日本大震災の被災状況は報じられているので、東北ツアーの実施に本部が「YES」と言ってくれるかが不安でした。そこで、アメリカ軍が石巻市民の方々に演奏を披露している映像を撮影させてもらい、ブラスバンドの演奏で被災地の方々が笑顔になる様子と、厳しい被災地の現状を編集した動画を持参して渡米しました。持参した映像を会議の場で見せながら、「どうしても東北の支援をしなければならない。東北ツアーにかかるお金も募金を集めて何とかするから、どうにか実行させてほしい」とお願いすると、「日本の一大事だから、できるだけのことをしたい」と、「YES」の答えが返ってきたのです。
このような経緯を経て、2011年の9月にヤングアメリカンズの東北ツアーが決まりました。
キャストは6人だけの予定でしたが、本部に「もう少しツアーメンバーを増やせないか」と相談すると、ベテランのキャストが東北ツアーへの参加を希望してくれ、13人にまでキャストが増えました。ところが、当時の被災地は学校の授業も再開が厳しいような状況だったので、ワークショップを開催できる学校がなかなか見つかりませんでした。はじめの頃は、駐車場や小さな会場を借りて、自分たちでチラシを撒き、呼び込みをしながらツアーを実施していきました。そんな状況でも、初めの1ヶ月間のツアーで、20会場で1,000人ほどの子どもたちが参加し、笑顔を見せてくれました。この様子を見ていた学校関係者が、「ヤングアメリカンズは素晴らしい、新しい教育だ」と評価してくれたそうで、そのことを文部科学省経由で聞きました。こうした反響をヤング・アメリカンズの本部へ連絡すると、翌年2012年からは、より本格的な東北の応援を始めようという話になったのです。
佐野: ヤングアメリカンズの本部が東北ツアーを認めてくれたのにはもう一つ理由があります。アメリカに帰国した、2011年の東北ツアーに参加していた13人のキャストが、「何もかも失ってしまっても、精一杯生きている人たちがどれだけ美しいか。一緒に立ち上がろうと、気持ちを分かち合うことがどれだけ大事なことか。私たちはヤングアメリカンズを卒業した後も、東北ツアーで経験してきたことは生涯忘れない」と報告したそうです。
その報告を受けた本部が、東北ツアーにキャストを送り届けることでキャストも成長できると考え、2012年から本格的な35名のツアーに踏み切ってくれいました。
2012年の頃はヤングアメリカンズの存在を広め、受け入れ先の学校を見つけるのに苦労もありましたが、翌年2013年のツアーでは、ほとんどの学校で生徒だけではなく先生もワークショップに参加してくれるまでになりました。
佐野:ヤングアメリカンズを通じて、子どもたちが元気になるだけではなくて、学校や地域も一緒に元気になっていくという流れが、この2年間ででき上がってきたと思います。「東北の子たちはシャイだ」と言う人もいますが、実際はそんなことありません。
一方で、震災を経験したことで、「復興に向けて頑張らなくてはいけない、親に心配をかけないよう、元気なところを見せなければいけない」と、自分の感情を押し殺しているところはあると思います。そうして、自分自身を守るための心の壁を作ってしまいがちです。自分で作ってしまったその壁は、やはり自分の力で破らなければなりません。キャストは無理やり殻を破らせるのではなく、子どもたちや先生が自身の力で殻を破ることをサポートしているのです。
林:はっきりと目に見える変化は無いと思うのですが、2012年より2013年の方が表面的には元気になっているような気がしています。その一方で、不登校になっている子どもがいたり、ささいなことで突然泣きだしてしまったり、子どもたちがすごく敏感になっていて、それぞれの内面に抱えているものが複雑になってきているのではないかという気はします。
佐野:顕著なのは、東北ツアーに参加したキャストが、アメリカやヨーロッパのツアーで必ずリーダーになり、周囲に影響力を発揮しているということです。歌やダンスのテクニックだけではなく、子どもたちと誠心誠意向き合うことの大切さを東北ツアーで学び、それが世界中で行われるツアーで良い影響を与えている、これはすごいことだと思います。
林:東北ツアーの最初と最後では、キャスト全員の成長を感じます。子どもの接し方において、強く示さなければならないところと、優しく教えるところのバランスが身につき、アイコンタクトでも気持ちを伝えられるようになります。
佐野:昨年福島県伊達市で開催したワークショップを通じて、地域は学校を基本に成り立っているので、保護者にワークショップから参加してもらえれば、その後さらに地域に大きな影響を与えて地域全体が良くなっていくということが分かりました。それこそがこの2年間、東北ツアーをやってきた一つの大きな収穫なので、今年はファミリーワークショップに力を入れていこうと思っています。
林:「福島こども力プロジェクト」では、他団体とのプログラムの連携に興味があります。
それぞれのプログラムのいいところをちゃんとお互いに共有して、さらに連携が生まれていくようになればいいですね。